ようこそゲノムの世界へ|ゲノムに関する様々な情報を発信していきます。 - Part 6

Into the genome era
ゲノムの時代へ
膨大な情報を、
わたしたちは自在にあやつって、
新しい時代を拓くことができるのか、
やがてくる明日への羅針盤に

大量同時並行でスピードアップ

~次世代型シークエンサーと従来法との違い~

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03DNA 二重らせんの配列を決める(シークエンス)ために用いられる次世代型シークエンサーと従来法(サンガー法)との違いは何でしょうか。一口に言うと、サンガー法が一つひとつDNA 配列を決めていくのに対し、次世代型シークエンサーは同時並行で一気に複数のDNA 配列を決定するというところです。複数というのが数千万から数億の規模になりますので、効率がぜんぜん違います。サンガー法しかなかった頃は病気の原因遺伝子の探索のためには、DNAの読み取りをする前に相当に絞り込んで、候補の領域だけを読み取るような創意工夫が必要でしたが、次世代型シークエンサーの出現で「まずはゲノムを解読してみよう」ということが可能になりました。ただ、サンガー法は今でも活用されています。サンガー法のDNA読み取り精度の信頼性はより高いので、次世代型シークエンサーの解析結果の確認に使います。また、特定の遺伝子の特定の場所を解析するのには費用もかからず、結果の解析も簡単なサンガー法が便利です。次世代シークエンサーでは膨大なデータが出てくるため、見たい結果を探すだけでも相当な作業が必要になります。

【関連リンク】
ToMMoではこうやってDNAを解読しています(前編:次世代シークエンサー)

2015.08.13|ダーウィニアン

加齢黄斑変性

~遺伝子多型解析から発症原因に迫る~

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Table1_1加齢黄斑変性は、加齢により網膜の中心部である黄斑に障害が生じ、視力が低下してくる病気で、遺伝要因と環境要因が影響し発症すると考えられています。我が国では、近年平均寿命の上昇と生活様式の欧米化により発症率が増加していると考えられ、後天的失明原因の第4位となりました(欧米では第1位)。加齢黄斑変性は、遺伝子多型と疾患との関連が特に強いものとして知られ、5つの遺伝子多型で約50%説明がつくとされています(Manolio TA, Nature 2009)。2005年からゲノムワイド相関解析(GWAS)によって、補体因子H(CFH)遺伝子、ARMS2遺伝子が加齢黄斑変性と関連していることが明らかとされ、加齢黄斑変性に慢性炎症が関与していることが示唆され、人種を超えて再現性が確認されています。日本からは、GWASにより新たなTNFRSF10A遺伝子領域の関連が報告されました(Arakawa S, Nature Genet 2011)。また、ARMS2遺伝子多型のリスクアレル頻度が加齢黄斑変性の3つのサブタイプにおいて違うこと、病変面積や両眼発症にも関連していることが明らかとなってきており、今後の個別化予防、個別化医療に向けたターゲットとして重要な疾患と考えられています。

2015.08.13|布施昇男

♂になるだけじゃない? 

~Y染色体に秘められたがんを抑える力~

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kuroki_02哺乳類のY染色体には、性決定因子であるSRY (sex-determining region Y)遺伝子が存在し、胎生初期に、この遺伝子が機能すると、個体は雄への発生過程へと進むことが知られています。また、Y染色体は父から息子へと伝わり、常に雄の系譜を経て次世代へ伝播されます。このため、ゲノム進化の過程で、Y染色体には、雄特有で雄の生存に有利な遺伝子が蓄積されてきたと考えられています。その一方で、雄化に関与しない遺伝子は機能を失い、Y染色体から消失していくとも言われてきました。しかし、近年、ヒトの様々な表現型とゲノムの関連性を調べたゲノムコホート研究から、血中細胞におけるY染色体の欠失が、癌発症リスクの上昇や癌における生存率低下と関連することが明らかになってきました。このことは、Y染色体に、癌抑制因子や癌の予後に影響を及ぼす因子が存在することを示唆しています。これまで考えられてきた性決定や雄特有なゲノム機能に加えて、Y染色体には、癌抑制作用という新たな機能が潜在することがわかってきました。

参考文献:Forsberg et al., Nat Genet. 2014, 46:624-628

2015.08.13|黒木陽子

ジャンクDNAは単なるがらくたでは無かった?!

~ヒトゲノムに散在するAlu配列~

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kuroki01ヒトゲノムには、容姿や体質など、ヒトとヒトとの違いに関わる様々な遺伝情報が刻み込まれています。約30億塩基対からなるヒトゲノムでは、タンパク質に翻訳される遺伝子のエキソン領域は2 %程度で、その他の領域は、イントロンなどの遺伝子間領域と反復配列で構成されています。反復配列の中でも、レトロトランスポゾンであるSINE(short interspersed element)の一種として知られるAlu配列は、霊長類に特異的な反復配列で、ヒトゲノムの約10%を占めます。その数は100万コピーとも言われていますが、Alu配列の機能や生物学的な意義は明らかになっていません。ゲノム解析技術の進歩に伴い、数千人規模の個人ゲノム解読や、反復配列領域の個人間比較ができるようになってきました。これらの解析から、Alu配列の位置や分布に個人差があることや、Alu配列がプロモーター領域やエキソンまたはイントロンに挿入されることで、近傍に位置する遺伝子の機能を変化させ、病気を引き起こすことなどが明らかになってきました。かつてジャンクDNAと呼ばれ、これまで重視されなかったAluを含む反復配列が、ヒトの表現型に及ぼす影響や、ヒトゲノムにおける反復配列の生物学的意義の解明が進められています。

参考文献:Xing et al., Genome Res. 2013, 26:1516-1526

2015.08.12|黒木陽子