宇留野晃 | ようこそゲノムの世界へ

Into the genome era
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宇宙で暮らすために大事な遺伝子?

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人類にとって宇宙は多くの可能性を秘めた空間です。これまでに多くの宇宙飛行士が宇宙へ行き、現在では地上約400 kmに建設された国際宇宙ステーション(ISS)での宇宙飛行士の長期滞在が行われています。たくさんの人が行ってみたいと憧れる場所ですが、誰もが行けるわけではなく、暮らすことなど遠い未来の話…。
ところが、宇宙空間では、微小重力や宇宙放射線の影響により、体に様々な変化が引き起こされることがすでに分かってきています。無重力状態などの地上とは異なる環境は、人の体にストレスを生じさせ、短期間でも加齢と同じような変化が生じてきます。将来人類が宇宙で暮らすという大きな夢の実現には、解決しなければならない問題が多いのです。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、ISSの日本実験棟「きぼう」に小動物飼育装置を設置し、宇宙でのマウス利用研究を開始しました。第3回マウス長期飼育ミッションとして、東北メディカル・メガバンク機構の山本雅之機構長が研究代表者をつとめる「宇宙ストレスにおける環境応答型転写因子Nrf2の役割」が行われています。これは、ストレス防御に重要なNrf2を欠失したマウス(Nrf2遺伝子ノックアウトマウス)をISSで飼育するミッションです。宇宙での滞在により生物に引き起こされる変化が加速すると予想されるので、酸化ストレスや毒物代謝に重要な遺伝子の発現を調節する転写因子であるNrf2の研究にこのミッションは非常に有効な手段なのです。
既に、2018年4月から1ヶ月間ほど、ISS内でNrf2遺伝子ノックアウトマウスが飼育され、2018年5月6日に無事全てのマウスが地球に帰還しました。私は、研究チームの一員として研究に参加しています。現在、詳しい解析を進めているところですが、宇宙空間で飼育したNrf2遺伝子ノックアウトマウスを解析することで、宇宙環境における遺伝子発現調節の一端が明らかにできると期待しています。人類が宇宙で暮らすための歩みは一歩一歩進んでいます。

【関連リンク】

国際宇宙ステーション 日本実験棟「きぼう」における小動物飼育ミッションについて

世界初、遺伝子ノックアウトマウス(特定遺伝子を欠失したマウス)の全数生存帰還に成功~国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」より~

2018.07.27|宇留野晃