ダーウィニアン | ようこそゲノムの世界へ

Into the genome era
ゲノムの時代へ
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ヒトだけが違う?!

言語を司る遺伝子

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人間の言語能力は明らかに他の動物と比して卓越しています。しかし、どの遺伝子がヒトに特異的な言語の進化を司っているのかは、結論はまだ出ていません。遺伝学的に失語や構音障害が発生する家系の解析から言語を司る遺伝子として注目を集めたのが転写因子として働くFOXP2(forkhead box P2)です。この遺伝子は言語機能や口腔運動機能障害を示す常染色体優性遺伝の遺伝病家系から同定されました。同遺伝子の変異アレルを継承した個人は、健常人と比べ低IQなど他にも様々な神経学的異常を示すのですが、言語機能の低下、言語を司る脳の領域の機能変化、口腔の機能異常などが目立つため「言語遺伝子」と呼ばれています。同遺伝子にはチンパンジーやネズミ等の動物とは異なり、ヒトにだけ特徴的な変化として、2箇所のアミノ酸置換があり、面白いことにこの2つの置換はネアンデルタール人ゲノムでも検出されました。こちらも現代人ゲノムの混入や、ネアンデルタール人と現生人類の過去の混血の結果だとか様々な議論があります。現在ではFOXP2の発現制御機構がヒトで特徴的な進化を遂げた可能性について検討されています。また、同遺伝子以外にもモノマネをする鳥などとの進化学的比較からKIAA0319など複数の遺伝子の進化がヒトの言語機能に関連する可能性も示唆されています。

参考文献:WIREs Cogn Sci 2013, 4:547-560. doi: 10.1002/wcs.1247
Scientific Reports | 6:22157 | DOI: 10.1038/srep22157

2017.12.18|ダーウィニアン

同じ多型で痩せたり太ったり?

~世代によって影響力が異なる~

遺伝学において、疾病や形質と強く関連する遺伝子多型がどのように機能しているのかを言い当てることは困難です。例えばFTO遺伝子のイントロンに存在する多型rs1421085もその一つです。同遺伝子はマウスの合指症(Fused toe)を示す変異の解析で発見され、合指症関連の大きい遺伝子(全長54 MB)Fastoと命名されました。FTO遺伝子そのものは核酸の脱メチル化酵素をコードしているのですが、近年ゲノムワイド関連解析によって、多くの民族で同遺伝子のrs9939609やrs1421085など、複数の多型が肥満に関連することが示されました。興味深いのは、米国で同遺伝子の多型の肥満への影響について世代別に解析したところ、rs9939609多型が肥満についての効果を強く示すのは1942年以後に出生した人たちに対してであり、それ以前に出生した人については効果が弱いことが示されました。さらにrs1421085多型はFTO遺伝子の機能とは関係なく、染色体上での隣のIRX3, IRX5という2つの遺伝子の発現を調節しており、このIRX3, IRX5遺伝子が脂肪細胞の分化に関連していることが判明しました。この一連の発見は、遺伝学の研究において多型の機能的意義付けの難しさを示す事例です。

参考文献:
Rosenquist, J. N., et al., Proc Natl Acad Sci USA. 2015.
Claussnitzer, M., et al., New Eng J Med. 2015.

2015.10.30|ダーウィニアン

ジェノタイピングとシークエンシング

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iScan_figジェノタイピングとは日本語に訳すと「遺伝子型判定」といい、全ゲノムの配列を解読する代わりに個人間で異なることが予めわかっているゲノム上の場所についてのみ検索する技術です。具体的には個人間で配列が異なる箇所を検出する短いDNAを数百万種類合成して1枚のチップに搭載し、30億塩基対のうちの1%程度の箇所について確認します。チップ上にない配列は検出できません。ToMMoでは次世代シークエンサーで全ゲノム解読を実施する検体については、全例チップによるジェノタイピングも実施します。それらについて同じサンプルで全ゲノム解読をすれば同じ結果が得られるはずで、不要ではないかと思われるかもしれません。しかし、実際にはヒトのゲノムには未知の多様性があり、次世代シークエンサーでは予想しない結果が出ることがあります。そのため、全ゲノム解読の精度を確認するためにジェノタイピングを実施します。また、次世代シークエンサーでの解析で万一検体を取り違えてもジェノタイピングした結果と合わせることで検体間の間違いを修正することも可能になります。

2015.08.13|ダーウィニアン

大量同時並行でスピードアップ

~次世代型シークエンサーと従来法との違い~

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03DNA 二重らせんの配列を決める(シークエンス)ために用いられる次世代型シークエンサーと従来法(サンガー法)との違いは何でしょうか。一口に言うと、サンガー法が一つひとつDNA 配列を決めていくのに対し、次世代型シークエンサーは同時並行で一気に複数のDNA 配列を決定するというところです。複数というのが数千万から数億の規模になりますので、効率がぜんぜん違います。サンガー法しかなかった頃は病気の原因遺伝子の探索のためには、DNAの読み取りをする前に相当に絞り込んで、候補の領域だけを読み取るような創意工夫が必要でしたが、次世代型シークエンサーの出現で「まずはゲノムを解読してみよう」ということが可能になりました。ただ、サンガー法は今でも活用されています。サンガー法のDNA読み取り精度の信頼性はより高いので、次世代型シークエンサーの解析結果の確認に使います。また、特定の遺伝子の特定の場所を解析するのには費用もかからず、結果の解析も簡単なサンガー法が便利です。次世代シークエンサーでは膨大なデータが出てくるため、見たい結果を探すだけでも相当な作業が必要になります。

【関連リンク】
ToMMoではこうやってDNAを解読しています(前編:次世代シークエンサー)

2015.08.13|ダーウィニアン