家の中の暑さ寒さが心理的苦痛に関係? ~地域住民コホートの結果から~

私たちは、住宅で一日の半分以上の時間を過ごしており、健康維持増進のためにも良好な住環境をつくることは重要な課題です。

住環境と居住者の健康状態の関係性については、皆さんよくご存じのカビやダニをはじめとする生物由来の物質が原因となって引き起こされる健康被害(アレルギー)や住宅の温熱環境が居住者の健康被害に関する研究をはじめ多くの知見が蓄積されています。しかし、住環境の温度と居住者の心理的苦痛との関連を検討した研究はありませんでした。そこで、今回、住環境の温度に関する主観的評価と心理的苦痛との関連を検討し、2020年2月に京都市で開催された第30回 日本疫学会学術総会にて発表しました。

方法は、地域住民コホート調査の追跡調査に参加した方のうち、住環境の温度に関する主観的評価項目、心理ストレス評価項目の情報に欠損のない29,380人を対象としました。住環境の温度に関する主観的評価にはCASBEE健康チェックリスト*1全50項目のうち「暖かさ」に関する12項目(CASBEE温度スコア)をスコア化(各項目1~4点)し、合計スコア(合計スコア範囲12~48点)を算出しました。なお、暖かさに関する項目は夏季と冬季の居住者の快適度をスコア化しており、季節には依存しません。心理的苦痛の評価にはK6*2を使用し、合計得点5点以上を「心理的苦痛あり」としました。

その結果、CASBEE温度スコアの平均値は32.7点であり、6,656人(22.6%)に心理的苦痛がみられました。また、CASBEE温度スコアが低い(=住環境の温度に関する評価が低い)群ほど心理的苦痛を有する割合が高いことがわかりました。そして、CASBEE温度スコアが低いほど心理的苦痛ありのオッズ比が有意に高くなる結果でした。 

住宅は私たちの安全を守り、休息する場であり重要な生活の場です。私たちは、住環境が健康の決定要因であることを正確に確認するために、医学や公衆衛生学の専門的知見を踏まえながらさらに調査を進める予定です。

*1 CASBEE健康チェックリスト:一般社団法人日本サステナブル建築協会により開発された、住宅の健康性を居住者の視点で評価する指標。(参考:CASBEE 建築環境総合性能評価システム
*2 K6(Kessler Psychological Distress Scale):心理的苦痛のスクリーニングとして広く使用される尺度。(Furukawa TA, Kessler RC, Slade T, Andrews G. The performance of the K6 and K10 screening scales for psychological distress in the Australian National Survey of Mental Health and Well‐Being. Psychol. Med. 2003; 33: 357–362.)

(2020年6月29日)