ゲノムの変異の実験的効果予測 ~BRCA1タンパク質の機能測定からみえるもの~|ようこそゲノムの世界へ

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ゲノムの変異の実験的効果予測 ~BRCA1タンパク質の機能測定からみえるもの~

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ヒトゲノム全体が解読されてから、現在ではゲノムの多様性を解明する研究が盛んに進められています。メンデル遺伝性疾患の場合、原因遺伝子に観察されるそれぞれのバリアントが、疾患の原因となるのかどうかを判断することはとても重要です。これまでの研究で報告されている病的バリアント(疾患の原因となるバリアント)の情報はデータベースに蓄積されてきているので、着目するバリアントが病的バリアントであるか、あるいはその可能性が高いと報告されているものかどうかを確認することは、専門家により広く行われています。しかしヒト集団中には、本当は疾患原因のバリアントであっても、まだ論文などで報告されていないものも存在しますし、人が世代交代を続けている以上、突然変異により新たなバリアントが発生します。では、どうすればより良い判断ができるでしょうか?

この課題へのアプローチの仕方は一つではないのですが、最近、ゲノム編集技術を活用した画期的な論文が発表されました。遺伝性乳癌卵巣癌症候群の原因遺伝子の一つとしてBRCA1が知られていますが、この研究では、BRCA1タンパク質の機能的に重要な部分の塩基配列について、あり得る全ての一塩基変異のゲノム編集実験を行いました。そして、BRCA1タンパク質が本来の機能を発揮しているかどうかを、細胞の生き残りの程度で計測しました。実際に、約4,000の一塩基変異の機能への効果を測定し、その分布は二峰性を示すことが分かりました。機能測定の結果の分析により、それぞれの変異が病因性をもつかどうかという予測について、有効な手法であることが分かりました。
この研究の手法は、他の重要な機能をもつ遺伝子についても適用できることはもちろん、得られたデータから見えてくることは、遺伝医学的側面のみならず、タンパク質の機能を保ちながら変異できる範囲など、基礎研究においてもインパクトが大きいと考えられます。また、実験的な変異の効果予測は、近い将来の詳細な研究の蓄積を先回りしているところがあり、バリアントの解釈方法の進展が加速していくことを示しています。これまでは、効果の不明なバリアントが沢山残っていたところ、本研究のような手法により得られた知見を活用することで、病的バリアントがどれであるかの判断がしやすくなるので、ゲノムに基づく個別化医療・予防の精度が高まることが期待されます。

※ 参考文献
Accurate classification of BRCA1 variants with saturation genome editing | Findlay GM, et al.  | Nature 562(7726):217-222, 2018. | doi: 10.1038/s41586-018-0461-z

2019.04.05|山口由美