遺伝子の発現のスイッチをONにする転写因子|ようこそゲノムの世界へ

Into the genome era
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遺伝子の発現のスイッチをONにする転写因子

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Printヒトゲノムは、1セットあたり4種類の文字(A, T, G, C)を使って書かれた、約30億文字の言わば暗号配列です。しかし、タンパク質の設計図が書かれている部分は、暗号全体の数%です。それでは、残りの配列は何をしているのでしょうか。残りの配列の一部には、タンパク質が、どの細胞でいつ・どのくらい発現するか、厳密にコントロールするための配列(制御配列)が含まれています。私達の細胞は、基本的にどの細胞でも、つまり血液の細胞でも、皮膚になる細胞でも、同じゲノムを持っています。しかし、血液の基となる細胞が、血液の細胞になれたのは、血液で必要なタンパク質だけが、必要な時期に必要な量、発現したからです。例えば、血液で重要な遺伝子の近くにはG-A-T-Aという制御配列があり、血液で働くGATA-1と呼ばれる転写因子が認識して結合します。酸素を運搬するヘモグロビンをつくるのに必要な遺伝子の近くにも、-G-A-T-A-という配列があり、GATA-1転写因子が結合して遺伝子の発現をONにしています。しかし、G-A-T-Aという配列があれば、必ずそこにGATA-1が結合して、近くの遺伝子のスイッチをONにするのかというと、そうではありません。-G-A-T-A-の配列の周辺の配列や、協力して働く別の転写因子の結合する配列があるかなどの様々な条件が整って、初めてGATA-1が機能を発揮できるようになっています。さらに最近では複数の転写因子が結合したときに、その間をつなぐような働きをする転写共役因子の重要性も指摘されるようになってきました。制御配列も含めて、私たちのゲノムの多くの部分の機能は、分かっていません。ヒトの遺伝子の解読技術が飛躍的に進んだ現在、この制御配列の解明が期待されています。

2016.06.17|クリビットJr.