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地域住民コホート調査
2025.04.10
震災の爪痕を測る:家屋被害と数年後の被災者の死亡リスクの関係は?
東日本大震災から2025年の3月で14年が経過しました。被災地の方々の健康支援や震災の影響調査は、設立当初からの私たちの使命でもあり、これまで皆さまにご協力いただいた調査の結果をもとにさまざまな研究を行ってきました。
これまで、東日本大震災をはじめとする大規模自然災害の被害を受けた人々は、様々なストレスを受けることによって、PTSD(心的外傷後ストレス障害)やアルコールの問題などを抱えやすいということが報告されてきました。心身の健康へのこのような影響は、災害の発生直後だけでなく、中長期的に持続するのでしょうか?
今回ご紹介する研究では、コホート参加者6万人を対象として、震災による家屋の喪失を経験した被災者の方々とそうでない方々の間で、数年後(平均6.5年)の死亡リスクに差が生じているかどうかを調べています。家屋喪失を経験した方々は、その後のストレス反応によって死亡リスクが高いのではないか?という仮説が立てられました。
ところが予想に反し、本研究では両者の間に差は見られなかったのです。住み慣れた家屋の喪失という経済的・心理的ダメージの大きさにもかかわらず、このような結果がみられた要因として、本論文中では自治体や医療機関の支援が寄与した可能性について触れています。他にも、本研究では見ることのできない被災者自身のレジリエンス(困難やストレスに直面した際に立ち直る力、回復力)や、地域コミュニティ内での助け合い等も有効に働いたかもしれません。
今回の研究は、そうした「要因」の分析や、震災直後(ToMMoのコホート調査が始まる以前)に亡くなった方々、調査に参加されていない方々の数については対象とされていないといった限界があります。震災による中長期的な健康リスクを調べ、効果的な支援に繋げるためには、今後多方面からのアプローチによる研究が必要です。