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三世代コホート調査
2024.10.22
産後うつと遺伝子 nature or nurture
メンタルヘルスの不調やこころの病気は、遺伝子とどのように関わっているのでしょうか?
東北大学と名古屋大学の共同研究により、産後うつ病に関連する遺伝子座が世界ではじめて特定されました。この研究では、東北メディカル・メガバンク計画による三世代コホート調査に登録された約1万8千人の周産期女性と、名古屋大学の研究に登録された約1千人の周産期女性を対象に、産後うつになった方とならなかった方のゲノム解析が行われた結果、産後うつの生じやすさを左右する8つの遺伝子座が特定されました。
産後うつには多くの生物学的要因と環境要因が関連すると考えられています。個人が置かれている環境は多様であることから、これまで遺伝子のみの影響を調べることは容易ではありませんでした。今回の研究では、このような大規模な人数の情報がそろっていたため、うつ症状との関連が特に大きい環境要因(出産回数および同居する家族の人数)を特定し、それらの影響を除くことで遺伝子座の特定に至ることができました。さらにこれらの遺伝子座は、過去にうつ病や双極症、統合失調症などとの関連が指摘されていることから、産後うつと他のこころの病気のなりやすさには共通性があることが考えられます。
このような研究成果が病気のメカニズムの解明につながり、予防方法や医薬品の開発といった医療の進展が期待できます。また外見からはわかりづらい病気への理解がすすむことで、心無い反応や自責感情から、病気に悩む人びとを救うことも期待できます。
一方で注意が必要なのは、他の多くのこころの病気と同様に、産後うつも遺伝子などの生物学的要因だけでなく、様々な環境要因が関係しているということです。今回は産後うつとゲノム要因との関連を見えづらくする影響が特に大きい環境要因として、出産回数および同居する家族の人数が特定されましたが、産後うつの環境要因に関する先行研究では、これまで周囲のサポートや経済状況、睡眠時間などによる影響が報告されてきています。
中には、症状に「産後うつ」という医学的名づけをすることで、問題を見る視点が女性の置かれた環境ではなく女性自身にむかうこと、それにより、解決策が患者個人の治療に集中し、社会制度等の不備から目をそらしてしまうことを危惧する議論もあります。
大部分の病気には、遺伝子だけ、あるいは環境だけではなくその両方が関係していることから、予防・改善方法にも医療が有効な側面もあれば、生活習慣の見直しや人間関係、制度の改善等が有効な側面もあり、多方面からのアプローチが望まれるのです。