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2018.09.27

抗HIV薬の効果や副作用発現に関与する薬物代謝酵素の遺伝的特性を解明 -CYP2B6遺伝子多型に基づく個別化薬物療法の展開を視野に-

【発表のポイント】
・薬物代謝酵素の一種であるCYP2B6*1の遺伝子多型*2は、抗ヒト免疫不全ウイルス(HIV)薬をはじめ多くの薬物代謝反応の個人差を引き起こす原因の一つと考えられています。
・東北メディカル・メガバンク機構が構築した「全ゲノム*3リファレンスパネル」を活用して、新規7種類を含めた全40種類のCYP2B6遺伝子多型について、分子中にアミノ酸置換を導入したCYP2B6タンパク質を人工的に作製しました。
・抗HIV薬エファビレンズの代謝反応において、CYP2B6活性が消失する15種類の遺伝子多型を同定しました。
・エファビレンズ服用患者において、酵素活性が消失する遺伝子多型を有する場合、中枢神経障害などの副作用発現リスクが上昇する可能性が考えられます。遺伝子多型を事前に検査することで、CYP2B6で代謝される医薬品の安全で効果的な薬物療法の展開が期待されます。

【概要】
バイオバンク部門の平塚真弘准教授(東北大学大学院薬学研究科生活習慣病治療薬学分野、東北大学病院、未来型医療創成センター兼任)、山本雅之機構長らは、東北メディカル・メガバンク機構が構築した「全ゲノムリファレンスパネル」を活用して、40種類のCYP2B6遺伝子多型について、酵素機能に与える影響とそのメカニズムを解明しました。
遺伝子多型に由来するCYP2B6の酵素機能変化については、各国の研究グループ間で異なる基質薬物や組換えタンパク質発現系を使用し、限られた種類の遺伝子多型で機能評価をしていたことにより、一貫した結果が得られていませんでした。近年、東北メディカル・メガバンク機構による大規模な日本人集団の全ゲノム解析によって、頻度が低いためにこれまで見落とされてきた遺伝子多型が多数同定されており、これらの低頻度遺伝子多型の中に日本人集団特有の薬物体内動態変動を予測する遺伝子多型マーカーが存在する可能性があります。したがって、CYP2B6遺伝子多型による酵素機能変化について、一貫性のある比較・評価を行うためには、同一実験系での網羅的な機能解析が必要と考えられます。 
本研究では、日本人1,070人の全ゲノム解析で同定された7種類を含む全40種類のCYP2B6遺伝子多型について、それらが薬物代謝に与える影響を遺伝子組換え酵素を作製して網羅的に機能解析しました。それらの遺伝子多型うち、15種類で酵素活性が消失、6種類で低下、6種類で上昇することを明らかにしました。今回、日本人で新たに同定された遺伝子多型の中では、3種類のCYP2B6で酵素活性が完全に消失することが明らかになりました。医薬品の副作用回避や適切な薬効を得るための投与量調節といった観点から、本研究はCYP2B6遺伝子多型を考慮した「未来型医療」を実施する上での情報基盤となり、さらなる臨床応用が期待されます。


詳細(PDF)

【論文題目】
Title:Functional characterization of 40 CYP2B6 allelic variants by assessing efavirenz 8-hydroxylation
Authors: Takashi Watanabe, Takahiro Saito, Evelyn Marie Gutiérrez Rico, Eiji Hishinuma, Masaki Kumondai, Masamitsu Maekawa, Akifumi Oda, Daisuke Saigusa, Sakae Saito, Jun Yasuda, Masao Nagasaki, Naoko Minegishi, Masayuki Yamamoto, Hiroaki Yamaguchi, Nariyasu Mano, Noriyasu Hirasawa, Masahiro Hiratsuka

タイトル(日本語):エファビレンズ8-水酸化活性を指標とした40種類のCYP2B6バリアントの機能解析
著者: 渡邊卓嗣、齋藤雄大、Evelyn Marie Gutiérrez Rico、菱沼英史、公文代將希、前川正充、小田彰史、三枝大輔、齋藤さかえ、安田純、長﨑正朗、峯岸直子、山本雅之、山口浩明、眞野成康、平澤典保、平塚真弘
DOI: https://doi.org/ 10.1016/j.bcp.2018.09.010.

本研究成果は、米国の科学雑誌Biochemical Pharmacologyに9月8日に掲載されました。

【用語説明】
*1 CYP2B6
Cytochrome P450 2B6 (CYP2B6)。抗HIV薬エファビレンズ、抗悪性腫瘍剤シクロホスファミド、全身麻酔薬プロポフォールなどの代謝反応を触媒する酵素。
*2 遺伝子多型
遺伝子を構成しているDNA配列の個体差。
*3 ゲノム
個体が持つDNAのすべての遺伝情報。また、その情報が全て網羅されていることを強調して「全ゲノム」という。

関連リンク

未来型医療創成センター 
東北大学大学院薬学研究科 生活習慣病治療薬学分野 
東北大学病院 薬剤部
全ゲノムリファレンスパネル