個別化医療を先導する

東北メディカル・メガバンク計画が目指す次世代型医療の中心は、個別化医療・個別化予防です。さまざまな医薬品の治療効果や副作用の頻度や程度に個人差があることは以前から知られていましたが、その原因の一部に個人の遺伝情報の違いによるものがあるということが徐々にわかってきました。疾患の発症や医薬品の効果に関係する個人の遺伝情報に基づいて、予防的な治療や早期発見につなげたりその人に合った治療の選択を行ったりしていくことを、「個別化医療」といいます。当計画はさまざまな取組を通じて、個別化医療・個別化予防の先導モデルを構築することを目指しています。
具体的な取組の一つは、遺伝情報を一人ひとりにお伝えして健康づくりに役立ててもらう遺伝情報回付パイロット研究の推進であり、国内の大規模な研究では例のない取組です。またもう一つの取組は、遺伝情報と生活習慣等の環境要因の情報を利用して高血圧、アトピー性皮膚炎、脳梗塞等の疾患発症リスク予測手法を開発することです。更にそれを一人ひとりに回付するための手法の開発にも取り組んでいます。

遺伝情報回付に向けた取組

遺伝情報には、「不変性」(遺伝情報は一生変わらない)、「共有性」(親、兄弟などの血縁者と共通した特徴を持っていることがある)、「予測性」(病気を発症する前に、疾患の発症リスクがわかってしまう)、という他の一般的な検査結果にはない特徴があります。個別化医療・個別化予防を推進していくためには、一人ひとりが自らの遺伝情報を知り、ご自身やご家族の健康を維持するための生活習慣を実践したり、疾患の早期発見・早期治療につながるよう医療機関を適切なタイミングで受診したりすることが必要です。そのためには、多くの人々が遺伝情報について理解し、有用な情報をどう活用すればよいか知っておくことが大切です。東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)では、コホート調査の参加者に個人の遺伝情報をお伝えする(回付)取組を行い、その方法・必要な体制・医療との連携などの課題に取り組んでいます。
また、日常的な生活で誰もが遺伝情報に基づくリスク情報等を活用できる社会の実現に向けて、ゲノム先端研究に精通したToMMoクリニカルフェロー(TCF)や臨床遺伝専門医の育成、認定遺伝カウンセラーを中心に行われる遺伝情報回付のシステムの構築を目指しています。

パイロット研究の実施

大規模なコホート調査において遺伝情報を回付する取り組みは世界的にもあまり例がありませんでした。当計画では、学内外で検討を重ね2016年10月より第1回「ゲノムコホート研究における個人への遺伝情報の回付に関するパイロット研究」を開始しています。本パイロット研究は、最初に「家族性高コレステロール血症」の遺伝情報についての結果を回付して、その心理面、精神面の変化等について調査をすることを目的として行い、200人以上の方々が参加しています。
また、2019年からは第2回のパイロット研究として、医薬品の反応性に関する遺伝情報(ファーマコゲノミクス)を回付する事業を開始しています。今後更に対象疾患等を拡大していくことを計画すると共に、医療従事者へのアンケート調査によって、個別化予防・個別化医療に対する考え方や、それらの推進のためにどのような資源や援助が必要かについて調べていきます。さらに生活習慣病等の多因子疾患の発症リスクを知った際の理解や回付後の行動などについても多面的な調査を行っていきます。

遺伝情報回付

疾患発症リスク予測手法の開発

個別化医療・個別化予防の実現のためには、遺伝要因と生活習慣(環境要因)がそれぞれどの程度実際に疾患の発症に影響を与え、またどのくらいの確率で病気を発症する可能性があるのか、という精度の高い予測(疾患発症リスク)が必要となります。世界中で、多くの研究グループがリスクの予測に挑んでおり、いくつかの疾患でモデルが構築されつつあるなど成果が出始めていますが、まだこれから研究開発が進んでいく研究領域です。
当計画では特に、被災地での増加・深刻化が懸念されている高血圧、アトピー性皮膚炎、脳梗塞等多くの国民が罹患する一般的な病気に関する疾患リスク予測手法の開発に取り組んでいます。特に、前向きに取得された環境データを利用することで、網羅的な遺伝子・環境相互作用解析を行い、これまで考慮できなかった相互作用成分を取り込んだリスク予測モデルの構築を計画しています。従来のゲノム多型のみならず、次世代シークエンス解析によるレアバリアント、環境要因、遺伝子・環境相互作用を丁寧にリスク予測モデルに取り込んでいこうとしています。

疾患発症リスク予測における成果

当計画では、スパースモデリング手法(STMGP; smooth-threshold multivariate genetic prediction)を新たに開発し、その手法によるリスク予測が高精度かつ高速であることを示しています。この手法により、米国のアルツハイマー病患者全ゲノムシークエンシングデータから疾患発症リスクを予測したところ、本手法が既存の手法よりも、最高で3倍程度の高い性能を持つことがわかりました。今後のゲノム医学研究で、重要な手法となることが期待されています。また、この手法を応用して他の疾患の発症リスク予測を行った研究成果もあげつつあるなど、ToMMoでは高精度のリスク予測を行う方法についても研究を進めており、引き続き疾患発症のリスク予測の開発に努めていきます。

関連プレスリリース

これらを通じて、コホート調査により得られる生活習慣や環境因子のデータと、ゲノム解析、オミックス解析によって得られたデータが集積・統合され、生活習慣病を含めた精緻な多因子疾患の発症リスク予測手法が開発されています。遺伝情報回付に向けた取組と遺伝的リスク予測手法の開発を通じて、多因子疾患の遺伝情報回付に向けた基盤を作り上げています。