河北新報 リレーエッセー 医進伝心 第70回

ゲノム医療を東北の地に/予防、健康づくりに活用

2017年2月15日 掲載
山本雅之

東日本大震災から6年がたとうとしています。あの日私たちは多くのものを失い、それから何とかその被害から立ち直ろうとさまざまなことに取り組んできました。傷ついた地域医療を支えるために、東北大が提案したのは循環型医師支援制度でした。若手の医師が交代で被災地の地域医療機関に赴任する制度は、2012年にスタートし今も続いています。若手医師たちには地域を支えるだけでなく、最先端の医学に挑戦しようと呼び掛けて集まってもらいました。それがゲノム医学です。
人間の遺伝情報の1セットであるゲノムは、新聞の朝刊に換算すると80年分以上に相当する30億文字分のDNAという物質で書かれています。私たちは宮城県で12万人、岩手県を合わせると15万人の方々の協力を得て、長期健康調査を進めてきました。その中の2000人以上については、ゲノムを完全に解読しました。この膨大な情報の中から、健康に役立つ情報を世界中の研究者と協力しながら丹念に拾い出していく、最先端のゲノム医学を進めています。
次の段階では、ゲノム医学で分かったことを一人一人の医療に、さらに予防に生かしていこうと考えています。ゲノム医学は研究のための研究ではなく、一人一人の健康状態を精密に把握し、病気の発症を正確に予測するための道具です。私たちはそれを医療の現場で実際に使っていこうとしています。「医」学を「進」めていることを何とかお「伝」えしようという「心」意気で、一同で取り組んできたこの連載は今回で終わりますが、私たちが東北の地で行う挑戦は今後も続きます。

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