河北新報 リレーエッセー 医進伝心 第65回

選択行動とゲノム/生活習慣、病気にも関係

2016年11月16日 掲載
下川和郎

私たちは日頃から「どの服装にするか」「昼食は何を食べるか」といったようなさまざまなことを考え、意思を反映させながら行動しています。日常的に起こる選択行動に、個人のゲノム(全遺伝情報)は影響しているのでしょうか? 普段から健康的に生活している人でも、特定の食品について体調が悪くなるから食べない、体が冷えるからスカートははかないというように個々の事情を抱えていることがあります。こういった例を入念に調べていくと、予想外に個人の持つゲノムと深い関係が見つかるかもしれません。
極端な例ですが、尿素サイクル異常症などある種の代謝異常では、代謝サイクルの経路の途中の物質が、過剰にたまったり、逆に欠乏したりして、これを体内の感覚器が認識して偏食が起こることが分かっています。何らかの過剰な蓄積や欠乏を補おうとする行動が働くことによって健康を保とうとするのです。また、その行動が長期的には別の病気の原因となってしまったりすることがありそうです。遺伝要因(ゲノム)が環境要因や意思にまで影響を及ぼすという言い方もできるでしょう。
日常の行動など生活習慣を適切に記録したものは、病気の解明のための重要な手掛かりです。しかし、情報収集には主観の入りやすい自己申告による方法が用いられることもあり、ゲノムや検査値のような客観的データと統合した後の解析には、これまで以上に幅広い専門的知識の融合が必要になると考えられます。さまざまな情報が統合されたデータを病気の因果関係の解明に役立てる研究は、今後の大きな発展が期待されます。

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