河北新報 リレーエッセー 医進伝心 第53回

医療と統計学、ビッグデータの時代/疾病リスク解析に活用

2016年5月18日 掲載
中村智洋 

「ここにコンビニエンスストアを出店すると大きな収益は見込めるか?」「この生活習慣を続けるとこの病気になる可能性はどれくらい高くなるか?」-。統計学は、皆さんにも身近な疑問に対する答えを導くために使われてきました。
7年前のニューヨーク・タイムズの記事で、米国の著名な経済学者のハル・ヴァリアン氏は、「今後10年で最もセクシーな職業は統計学者って言い続けているんだ」と発言しています。これは近年の情報技術の発達に伴い、大規模で複雑なデータ(ビッグデータ)を解析する需要が増加していることによります。
これまでは「喫煙」と脳卒中リスクや、「塩分摂取」と高血圧リスクなど、生活習慣が病気の原因として主に注目されてきました。最近は「体質(遺伝子)」や「生活習慣と遺伝子の組み合わせ」が、病気とどのように関連するのか検討され、その報告がされています。生活習慣の項目には飲酒、喫煙、運動、食生活など多くの情報が用いられますが、遺伝子の情報量はその比ではなく、生活習慣と遺伝子の組み合わせまで考慮すると、まさにビッグデータを扱うことになります。
ビッグデータを用いる場合の統計手法も改良され、新しい手法の提案がなされてきました。「ある遺伝子を持ち、さらにある生活習慣を続けると病気になる可能性が高くなる」という新事実が目の前にあっても、用いる統計手法によってはその真実を見逃してしまいます。
一人一人の体質を考慮した個別化予防・医療の実現には、統計学の果たす役割が非常に大きいと言えるでしょう。

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