未知のなかば 未知先案内人

interview

第4回 いつの間にか、冒険の旅へ

きちんと冒険する

ToMMoの何が素晴らしかったか。それは「たくさんデータがある」ということです! 私、データがたくさんあることが好きなんです。データがこんなにたくさんあると思うと、それだけで魅力を感じます。ToMMoは、15万人の方の情報をお預かりすることを目標にしています。対象とする人数が多いだけではなくて、情報の種類がたくさんあります。「どのくらいお酒を飲んでいるか。何時間くらい睡眠をとっているか」といった日々の生活情報から、身長体重などの身体の情報、病気の情報、ゲノムの情報、非常にたくさんの種類の情報があります。ここまで大規模なデータで、しかも実際に自分たちで集めたデータをデータベースに統合していくという機会は他では絶対に得られないものだと思いました。

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ToMMoのスーパーコンピュータ

データというのは集めるだけではだめで、うまく使えるようにならないと意味がありません。たくさんのデータをいかに使いやすく整理するか、ということは、ToMMoの貴重なデータを生かすための必須条件です。
データを生かすということは「この病気とこの遺伝が関係している」とか、「ある遺伝型が薬や治療法の効果に大きな影響がある」ということの解明に繋がります。こういうことが明らかになると、患者さんの遺伝型に合った効果的な治療法を行うことが可能になってきます。いわゆる個別化医療 個別化予防ですね。こういった未来型医療の実現のために、ToMMoの膨大なデータをうまく整理できる人間が必要だ。それを私ができるかもしれない。素晴らしいことだと思いました。

そんなわけで、またもや夢中になってしまったわけですが、たくさんの失敗を経て私は少し大人になっていました。だからこれが「大きな冒険」だということを自覚していました。研究のことだけ考えるのではなく、たとえば生まれてからずっと暮らした東京を離れること、家族と離れて単身赴任すること、様々なことを検討して、きちんと計画的にこの冒険をしようと決めました。冒険をして失敗するかもしれないし、冒険したら怖いことがあるかもしれないけど、それでも私はこの冒険をしたいんだ、だから仙台に行くんだ、と。

冒険してみてどうだったか、そうですね。大変ですね……これまでいた大学よりもすごく厳しいです。やらなければいけない事がとにかくたくさんあって……。正直なところ、ここまで大変とは思っていませんでした。あと、家族の体調が良くない時など、これで良かったんだろうか、とか、やっぱりいろいろあります。

そんな時思い出すのは「きちんと冒険しよう」と自分で決めたことです。後先考えずに来たのではなく、私はここに来ることを決意して来たのです。ToMMoのゴールや事業規模を考えて、今やるべき事はしっかりと把握しています。

強く……なったのでしょうか? でも、いまだに怖いことはいやだし避けたいと思っているのです。ただ、分子生物学とコンピュータ科学という学問が素晴らしかったから、ちょうどこの二つの学問がダイナミックで劇的な変化を遂げる時期に居合わせたから、そしてこの分野が世の中で必要となり今後発展していくという確信を私が持つことができたから、導かれるようにここまで来たのだと思います。
こういう風に思えるようになったのも、きちんと冒険をして成功しているいろんな方々にお会いしたからだと思います。お手本となるような方が周りにいらしたということに感謝しないといけないですね。冒険がいやでずっと家にいたら、こんなに、様々な、いろいろな方々と出会うことはありませんでした。

研究でどうしてもできないことがあると、ものすごく落ち込みます。何よりも一番それが落ち込みます。でも「落ち込める」っていう、そういうものに出会えて良かったな、と思います。学生の頃の友達に「あなたって、今でもずーっと勉強してるのね」って言われて。ああそうだ、私ってずーっと勉強してるんだ、ずーっと好きで夢中で……。小さな頃に思い描いていた人生とは全然違うけれど、こんなに夢中になれる研究そして学問に対してありがとう、今はそういう気持ちです。


高井貴子

ToMMoの仲間たちと


【2015年5月13日。東北メディカル・メガバンク棟2階 ミーティングルームにて】

(プロフィール)
東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。理学博士。 国立医薬品食品衛生研究所研究員、東京大学医科学研究所助手、東京大学大学院情報理工学研究科特任講師、東京医科歯科大学特任准教授などを経て、2012年から東北メディカル・メガバンク機構 医療情報ICT部門 准教授。コホート情報管理室 室長。[2015年5月現在]

(担当:是枝幸枝)

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