耳垢のタイプ|ようこそゲノムの世界へ

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耳垢のカサカサ、ネバネバを決める遺伝子の多型

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耳垢のタイプには、かさかさしたタイプ(乾型)とネバネバしたタイプ(湿型)があり、それがメンデル遺伝することが昔から知られていました。しかし、どの遺伝子が耳垢のタイプに関わるのかについては、分かるのに年月がかかりました。
ついに2006年にToMMo富田博秋 教授(予防医学・疫学部門)も在籍していた長崎大学のグループが、16番染色体上のABCC11 (ATP-binding cassette protein C11)という遺伝子が耳垢のタイプを決めることを突き止めました。そして、耳垢の乾型と湿型の違いは、ゲノム上のグアニン(G)またはアデニン(A)という一塩基多型(SNP)によることが分かりました。そのSNPは、ABCC11遺伝子の産物の180番目のアミノ酸のところで、グリシンまたはアルギニンという違いを生み出します。この箇所の遺伝子型がAAの人の耳垢は乾型に、一方でGAまたはGGの人は湿型になります。
ヨーロッパやアフリカの人々では、ほとんどが湿型で、乾型を決めるAのタイプは、日本を含む北東アジアに多く分布しており、その頻度は国内でも少しずつ異なっており、地理的な勾配があります。このように、遺伝子を調べていくと、意外な形で、人体の不思議や人間の成り立ちが明らかになっていくということもよく起こります。

【研究の裏話-富田博秋 教授(予防医学・疫学部門)】
私も在籍していた長崎大学の研究グループは、ヨーイドンで急に体を動かそうとすると、意に反して手足が勝手に動いてしまう「発作性運動誘発性コレオアテトーシス」の原因遺伝子が16番目の染色体の真ん中あたりにあることを突き止めていたのですが、家族性にこの症状のみられる方から、この症状がある人とない人とで耳垢のタイプが異なるというご家族のお話を伺いました。
耳垢の遺伝子も同じ場所にあるかも知れないということで、2002年、耳垢のタイプが異なる人の家系を調べて、やはり16番染色体上にあることと、その細かい場所を突き止めました。そして、2006年、その場所にあるABCC11遺伝子が耳垢のタイプを決めることを突き止めるに至りました。

参考文献:Yoshiura et al., Nat Genet. 2006.

【関連リンク】
富田教授のインタビュ― ”精神疾患、その原因を追い求めて”

2015.10.14|山口由美